高松高等裁判所 昭和30年(ネ)183号 判決 1956年10月26日
控訴人 高岡テウ
被控訴人 泉亀吉 外二名
主文
原判決中被控訴人等勝訴の部分を取消す。
被控訴人谷岡一友の本件訴を却下する。
被控訴人泉亀吉、同菅鶴市の本件請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人泉亀吉、同菅鶴市の連帯負担とする。
事実
控訴代理人は原判決中被控訴人等勝訴の部分を取消す、被控訴人等の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とするとの判決を求め、被控訴人泉亀吉、同菅鶴市は控訴棄却の判決を求めた。
右当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるからここに之を引用する。 被控訴人谷岡一友は答弁書を提出して、同被控訴人は本件当事者に非ざることを確認する、同被控訴人に対する控訴は棄却する、訴訟費用中同被控訴人に対する部分は第一、二審共控訴人の負担とするとの判決を求め、答弁として次の通り述べている。「自分は昭和二十八年十一月上旬頃被控訴人菅鶴市の勧誘により共同し主として同人交渉のもとに訴外伊予市灘町滝口宗義より本件第一審判決表示の地上にある立木及び伐倒木約二十二、三万本を金三百四十万円也にて買入れの契約を結び之に要する手附金一百万円也の中三十五万円也を菅鶴市に交付した、その後被控訴人泉亀吉より前記立木買入契約に共同加入方を申出で同人は手附金中金五十万円也を出し残額を菅鶴市が調達したものの如く一応訴外滝口との契約は成立した。然るに前記手附金を控除したる残額金二百四十万円也の支払未了中に該立木及び伐倒木は複雑なる内紛潜在せるものなることを伝聞したるにより、菅鶴市、泉亀吉の両名に対し「自分は該共同干係より離脱する、今後本件に付ては如何なる利害得失発生するも自分は一切干係なきものである」旨を告げ、両名も之を承認し自分より手附金中に醵出した金三十五万円也は返還を受けた。よつて自分は控訴人に対し他の被控訴人両名と共同して本件訴訟を提起したること全然なく従つて第一審裁判所より口頭弁論期日の呼出状は勿論判決後の判決正本の送達を受けたこともなく、御庁より期日呼出状並に控訴状の送達を受け初めて当事者の一員となり居ることを知り事の意外なるに驚いた次第である。以上の理由により自分は本件当事者に非ざるを以て前記趣旨の判決を求める。」
控訴代理人は右答弁書中、被控訴人谷岡が共有関係により脱退したとの事実は争うと述べた。
<証拠省略>
理由
先づ被控訴人谷岡の答弁について検討するに、その趣旨は結局同被控訴人の本件訴は訴訟を委任せざる無権代理人により為されたものであるが故に無効であると言うに帰するのであるが、当審における同被控訴人訊問の結果に訴状添付の委任状、同被控訴人提出の答弁書(昭和三十年六月二十四日附)陳述書(同年十一月一日附)にそれぞれ押捺してある同被控訴人名下の印影を綜合して判断すると、同被控訴人は他の被控訴人両名との共同干係より一切手を引き之より受ける利益を要求せざる代りに又之について要する費用も一切負担せざることを約したものであつて、同被控訴人は被控訴人菅鶴市に本件に干する一切の権利行使を菅鶴市に委任する旨の書面(右被控訴人谷岡に対する本人訊問調書末尾添付)を手渡してあるけれどもその趣旨は要するに上叙の如きものであつて同被控訴人は本件を訴訟に持込む意思はなく、訴訟の当事者となることは全然予想して居なかつたことが認められるので、従つて同被控訴人の訴訟代理人として為した弁護士白石近章の原審における訴訟行為はすべて無効と言わざるを得ない。果して然りとすれば同被控訴人の本件訴は不適法として却下さるべきであり、之と異る原判決の該当部分は不当である。
よつて進んで控訴人と被控訴人泉亀吉、同菅鶴市との間の本案につき検討するに控訴人と被控訴人泉亀吉、同菅鶴市との間においては、昭和二十八年十一月十八日被控訴人等が訴外滝口宗義から本件伐倒木を立木と共に代金三百四十万円で買受け、同月二十二日右伐倒木の引渡を受けたことは当事者間に争がない。然るに成立に争のない乙第一、二、三号証第十三号証第十七号証ノ二、第十八号証に当審証人高岡福繁の証言、原審証人菅万作の証言の一部を綜合すれば、本件伐倒木は控訴人の所有であるが訴外菅万作(控訴人の実弟)同高岡繁恵(控訴人の二男)が控訴人に無断で右菅万作に所有権を移し菅万作より訴外加藤盛行、同滝口宗義に順次所有権を譲渡した(右滝口が伐採するまでは立木として売買されたもの)のであつて所有権は依然控訴人の手中に存し右滝口宗義に移転したことはない事実が認められる。右認定に反する原審証人滝口宗義の証言、同菅万作の証言の一部は措信し難く、原審における被控訴人菅鶴市本人尋問の結果によりては上叙認定を左右し得ない。従つて被控訴人等は本件伐倒木につき所有権を取得するに由なく、右売買契約により所有権を取得したりとする被控訴人泉亀吉、同菅鶴市の主張は採用し難い。次に右被控訴人等の即時取得の主張につき案ずるに、当審証人高岡明子の証言により真正に成立したと認められる乙第十九号証の一、二成立に争のない同第十八号証に同じく当審証人滝口宗義、藤原高千代、高岡福重の各証言及び前記高岡明子の証言を綜合すれば、被控訴人菅鶴市同泉亀吉は本件売買契約の当時控訴人と訴外菅万作等との間に本件伐倒木その他の所有権の帰属に干し紛争を生じ訴訟係属中なることを承知していたことが認められ又その頃控訴人が本件立木(伐倒木)の所有権移転を何人にも肯じなかつたことを右被控訴人において薄々察知していたものと推認することができる。然らば本件売買契約締結に際しては控訴人に対しその真否を確めるべきであるし、一面訴訟の結果如何によつては訴外滝口宗義が無権利者となるべきことは当然考慮に入れるべく、若し之を計算に入れずして売買契約を締結したものとすれば少くとも過失の責は右被控訴人が負担せねばならぬ。仮りに占有の初、善意なりしものとの推定を受けても、その善意なりしことにつき右の如き過失ありとすれば到底本件伐倒木の上に行使する権利を即時に取得したりと為すを得ない。被控訴人泉亀吉、同菅鶴市のこの点に干する主張も採用し難い。
以上の通りであつて被控訴人谷岡一友の本件訴は却下すべくその余の被控訴人等の本訴請求は理由なしとして棄却を免れない。之を認容した原判決は失当である。然るところ訴訟費用の点について、被控訴人谷岡の干係部分は民事訴訟法第九十九条第九十八条第二項により原審訴訟代理人に負担せしむべきものの如くであるが同条は代理人の代理権の欠缺について本人が何等原因を与えていない場合に限りその適用を見るものと解すべく、本件の如く被控訴人谷岡が同菅鶴市に委任状を手交し菅鶴市が前記代理人に訴訟委任を為したものであつて而も訴訟委任状の谷岡一友名下の印影を同被控訴人において敢て争わざる事情の存する場合においてはその適用なく訴訟費用は同被控訴人自ら之を負担すべきものと認めるを相当とする。尤も理由冒頭に説明した如く被控訴人等内部の干係においては谷岡被控訴人は費用を一切負担しない約束があるのであるから訴訟費用の負担についてもこの点を考慮する要あり、結局訴訟費用については同法第九十六条第八十九条第九十三条第一項但書を適用し被控訴人泉亀吉、同菅鶴市両名をしてその全部を連帯して負担せしめるものとし主文の如く判決する。
(裁判官 玉置寛太夫 加藤謙二 浮田茂男)